レーザートラッカーは、広い範囲の測定を可能にする機器です。大型の対象物や野外での計測において効果を発揮します。本記事では、レーザートラッカーの基本的な仕組みと、他の三次元測定機との役割などの違いについて解説します。
レーザートラッカーは、対象物の三次元座標を取得する光学式測定機です。レーザーを反射するリフレクタを用いて測定を行い、工業分野において広範囲な測定が可能です。
レーザートラッカーのコア技術は「距離」「水平角」「垂直角」の三要素をリアルタイムで取得し、極座標から直交座標へ高速変換する三角測量にあります。近年は干渉計(IFM)と絶対距離計(ADM)を同居させたハイブリッド計測が主流で、近距離のナノオーダー補正と長距離の絶対精度を両立しています。また、温湿度センサー内蔵モデルでは空気屈折率補正を自動で行い、屋外や大型工場内でもμmレベルの繰返し精度を確保できます。
レーザートラッカーと一般的な三次元測定機の違いについて解説します。どちらも三次元座標を取得するための三次元測定機ですが、使用環境や測定方法に大きな違いがあります。
| 項目 | 三次元測定機 | レーザートラッカー |
|---|---|---|
| 測定範囲 | 固定機+プローブで数m程度に制限 | レーザー到達範囲内なら遠距離測定可能(50m以上も可) |
| 測定方法 | 主に接触式プローブ(一部、非接触スキャンタイプあり) | リフレクタ・プローブ・スキャナによる非接触測定 |
| 携帯性・環境 | 持ち運び可だが、10m超や野外過酷環境には不向き | 野外・過酷現場にも対応、設置場所を選ばず使用可 |
| 測定精度 | ミクロンオーダーの高精度 | 三次元測定機に比べやや精度は劣る場合あり |
固定式CMMが得意とするのは「高剛性環境でのμm級精度」。一方、レーザートラッカーは「数十mスケールでの0.01~0.05mm級精度」を出張先でも実現できる点が最大の差別化要因です。航空機胴体や鉄骨構造物など、据え置きCMMでは物理的に載せられないワークをその場で測定できるため、据付検査・ライン検査の効率が劇的に向上します
レーザートラッカーは「接触―非接触」を自由に切り替えられる拡張性が強みです。リフレクタ測定は最も再現性が高く、6DoFプローブは奥まった穴深さや隠れた溶接ビードなど接触しにくい箇所をピンポイントで捕捉します。さらにハンディスキャナや内蔵レーザーレーダーを追加すれば、点群データとして複雑曲面を一気に取得できるため、鋳造品の肉厚偏差解析や大型金型の摩耗診断にも応用可能です。
最新モデルは本体質量10kg前後、キャリーバッグに収納して空輸できるサイズです。内蔵バッテリーで約4時間連続測定が行え、IP54相当の防塵防滴仕様も登場しています。振動の多い造船ドックでは三脚に防振台を組み合わせ、日差しの強い屋外では太陽追尾フィルターとエアパージで熱歪を抑制するなど、アクセサリーを組み合わせることで「測定室並みの安定性」を現場レベルで再現できます。
レーザーヘッドから発射されたビームは球状リフレクタ(SMR)で180°反射し、センサーに戻ります。この往復光路で距離を測定し、ヘッド側の回転角エンコーダで方向を決定します。距離 r、方位角 θ、仰角 φ の3値から
X = r・cosφ・cosθ
Y = r・cosφ・sinθ
Z = r・sinφ
を演算し、1秒間に数千点の三次元座標が生成されます。干渉計は0.5ppm以下の線膨張補正が可能で、温度ドリフトはセンサー内部で自動補正されます。近年は二波長干渉計によるダイナミックリファレンス方式が普及し、移動中のターゲット追従精度が格段に向上しました。
最大160mの測定直径で±15µm + 6µm/m といった公称精度を達成し、航空宇宙・エネルギープラントのアライメント作業を短時間で完了させます。
10kg前後の本体と三脚があれば設置は3分。クレーン搬送や大型ジグ固定が不要で、停電時でもバッテリーで継続測定が可能です。
リフレクタ・6DoFプローブ・ハンディスキャナ・ダイレクトスキャンをワンタッチで切替え、1台で接触/非接触/点群の全ニーズをカバーします。
ダイレクトフィードバックでCADモデルとの偏差を即時可視化し、治具合わせの試行回数を大幅削減。FARO社の実測データでは試作治具調整時間を75%短縮した例があります。
ロボットアームに搭載すれば自動スキャンラインが構築でき、24時間無人検査も可能。ロボットキャリブレーション用途では ±0.05mm 以内のTCP補正を達成します。
リフレクタ測定:最も基本的で高精度。SMRの再現性が±2µm級のため、公称精度を最大限活かせます。
プローブ測定:ワイヤレス6DoFプローブで手が届きにくい箇所や裏面の点を取得。スタイラス径2mmで深穴にもアクセス。
ハンディスキャナ測定:ブルーレーザーやラインプロファイル投影で1秒あたり数十万点の点群を取得。自由曲面解析に適しています。
非接触ダイレクト測定:リフレクタ無装着部位をIFMで直接スキャン。コーティング剤併用でアルマイトや黒色樹脂も測定可能です。
レーザートラッカーの価格相場と構成内容
レーザートラッカーの新規導入にかかる費用は、搭載機能や用途に応じて大きく異なります。以下に、代表的な構成ごとの価格帯とその内容をまとめました。
最もシンプルな構成で、レーザーヘッド本体とリフレクタ1~2個、基本的な測定ソフトが含まれます。大型構造物の位置決めや据付計測といった「点検測定」が主な用途で、追加機能は最低限です。特にCAD比較や複雑形状の解析は行わないが、とにかく高精度な三次元測定が欲しい、という現場に適しています。
プローブ(6DoF T-Probe等)や高機能ソフトウェアが含まれる構成です。これにより、奥まった箇所の接触測定や、形状・寸法測定、幾何公差(GD&T)評価にも対応可能になります。たとえば航空機のリベット穴検査や金型の接触測定など、検査工程に一歩踏み込んだ使い方を想定している場合には、この価格帯がスタンダードとなります。
6DoFプローブに加えて、ハンディスキャナや非接触のダイレクトスキャンユニット、点群処理ソフト、CAD差異解析モジュール、ロボットとの連携機能などが揃った“全部入り”の構成です。構造物の全面スキャンから、CADとの高精度な差分解析、自動化ラインへの組込みまでを1台で担えます。生産ラインの精度保証やアセンブリ検査に活用される、大規模現場向けのプロフェッショナルモデルです。
価格だけを見ると高額に感じられるかもしれませんが、従来のCMMでは不可能だった大型ワークの現場測定や、検査の自動化による作業時間削減効果を踏まえると、投資対効果(ROI)は高いと評価されています。導入前には、保守費・校正費(年間で本体価格の10%前後)や設置・教育費なども含めて、全体のランニングコストを見積もっておくことが重要です。
当サイトでは、大型検査におすすめ三次元測定機・レーザートラッカーを3製品紹介。いずれも卓上では測定の難しい中・大型ワークに対応している製品と、メーカー企業についての情報を記載しています。
大型ワークの検査は、測定の作業効率や取り回しの良さ、環境耐性など、測定対象や環境に合わせて重視する性能・特性を考えることが重要です。ぜひ、使用状況を鑑みながら、装置選定の参考にしてみてください。
画像引用元:キーエンス公式HP(https://www.keyence.co.jp/products/3d-measure/cmm/wm/get-pricing/)
自動車部品からプラント設備まで、大型ワークの寸法・形状測定をひとりでも迅速に。ワイヤレスプローブ搭載のハンディ型レーザートラッカー「WMシリーズ」は、接触式/非接触式を用途に応じて切り替え可能。タッチパネル直結でその場でPC連携できるため、現場での測定業務を効率化します。
ケーブル不要のため、25 m程度までの広範囲ワークもひとりでで楽に測定可能。
形状や材質に応じてプローブを交換し、複雑形状も高精度キャプチャ。
専用ケースに収まるポータブルサイズ。工場フロアや屋外でも設置不要で即稼働。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 測定範囲 | 1.0 ~ 25.0 m |
| 指示誤差 | ±(28 + 5 L/1000) μm |
| プローブ方式 | 接触式(専用プローブ) |
| 通信機能 | タッチパネル→PC(有線/無線) |
| 電源 | 内蔵バッテリー駆動(連続稼働約4時間) |
| 本体質量 | 約2.5 kg(プローブ含む) |
25 m以内の大型部品を複数同時に高速測定可能。従来は複数人で行っていた鋳鋼品や鉄骨部品の検査が、ひとり作業に。プローブの交換もワンタッチで、測定からデータ共有までスムーズに行えます。
「2 m~10 m以上まで測れない」という現場の声を起点に、レーザースキャナーではなくCMM技術をベースに開発。大型ワークに特化した効率化機構と、ケーブルフリーの取り回しやすさを両立しています。
SpaceTrac AP/A シリーズは、大型構造物の三次元測定に特化したワイヤレスタイプの三次元測定機です。
| 測定範囲(垂直方向) | -59~+79度 |
|---|---|
| 測定範囲(水平方向) | 640度(±320) |
| 測定範囲(測定直径) | SpaceTrac AP(50M):100m SpaceTrac AP(80M):160m SpaceTrac A(50M):100m |
| 三次元測定精度(MPE) | ±10μm+5μm/m |
| 角度精度(MPE) | 3.5μm/m |
| 距離精度ADM(MPE) | ±15μmまたは0.7μm/m(どちらか多いほう) |
| 測長ユニット | ADM |
| Spacetracタイプ | ワイヤレスタイプ |
| 本体質量 | 9.8kg |
| その他 | Vプロープ装着可 |
| 価格 | 要問い合わせ |
キーエンス WMシリーズは、広範囲の対象物を1人で簡単に測定できるポータブルな三次元測定機です。
詳しいスペックが知りたい方は、公式HPで無料のカタログをダウンロードできます。
Vantageレーザートラッカーは、FAROが提供する測定器で、大規模な産業用途に適した機器です。
| 測定範囲 | VantageS6 Maxレーザートラッカー:最大80m VantageE6 Maxレーザートラッカー:最大35m VantageS レーザートラッカー:最大80m VantageE レーザートラッカー:最大35m |
|---|---|
| 測定精度 | 要問い合わせ |
| 価格 | 要問い合わせ |
APDISシリーズは、ニコンが提供するレーザーレーダーで、非接触での自動化された精密計測に強みを持ちます。
| 測定範囲 | 0.5m~50m |
|---|---|
| 精度 (MPE※) | 20µm + 5µm/mまたは13.6µm/m |
| 価格 | 要問い合わせ |
| 計測速度 | 500点/秒~1000点/秒 |
| 振動計測 | 最大2000Hz:分解能1µm/m |
| 環境対策 | IP54 |
AT960は、ポータビリティと精度を兼ね備えたレーザートラッカーで、多様な産業用途に対応しています。
| 測定範囲 | 最大直径160m |
|---|---|
| 測定精度 | ±15μm + 6μm/m |
| 寸法 | 258 x 477 mm |
| 重量 | 14.2 kg |
| スキャンスピード | 1,000ポイント/秒 |
| スキャン密度 | 最小点間ピッチ 0.075mm |
| 価格 | 要問い合わせ |
ミツトヨのSpaceTrac-AIは、HeNeレーザー干渉計(IFM)を搭載しており、高精度での測定が可能なレーザートラッカーです。小型な製品となっており、重要は8.2kgとなっています。測定・解析ソフトウェアのSpatial Analyzer(SA)やPoly Worksなどを選ぶことが可能で、SAとの組み合わせによって3次元位置決め調整なども容易に行えるようになります。
| 測定方式 | IFM / ADM |
|---|---|
| 測定範囲 | 水平方向:640°(±320°) 垂直方向:-59°~+79° 測定直径:40 / 100 / 160m |
| 3次元座標精度 | ±10μm+5μm/m |
| 角度精度 | 3.5μm/m |
| 距離精度 | IFM:±0.5μm/m ADM:±10μmまたは0.7μm(どちらか大きい方) |
| 本体重量 | 8.2Kg |
大きな構造体を高い精度で三次元測定を行うことができるレーザートラッカーであり、搬送が難しい大型の部品や設備などの測定に向いている製品です。また、三次元モデルデータと実際の構造物の比較が可能であり、部品の良否判別などを簡単にレポートすることもできます。ヤマイチテクノではさまざまな機器を提供しており、ニーズや用途に合ったものを提案してくれます。
| 動作範囲 | 0~40℃ |
|---|---|
| 測定範囲 | 0~80m |
| IP規格 | IP52 |
| レーザー | クラス1 |
| 距離精度 | 16㎛+0.8㎛/m |
| 角度精度 | 20㎛+5㎛/m |
ライカジオシステムのポータブルレーザートラッカーLeica Absolute Tracker AT930は、コンパクトなオールインワンデザインです。IP54認証を取得していてダストなどの侵入を防ぐので、過酷な環境でも効果的に測定できます。環境ステーションの自動補正により、外部要因からの影響を受けずに測定精度を維持できます。
| 測定方式 | 記載なし |
|---|---|
| 測定範囲 | 水平方向:360° 垂直方向:±145°/360° 測定直径:記載なし |
| 3次元座標精度 | ±15μm + 6μm/m |
| 角度精度 | 記載なし |
| 距離精度 | 記載なし |
| 本体重量 | 記載なし |
Leica Absolute Tracker AT500は、簡単な操作で高精度な測定ができるレーザートラッカーです。IP54の認証を受けていることに加えて、ケーブルレスでコンパクトなので、さまざまな環境の測定を行う際に使用できます。大型構造物の3Dスキャンにも対応できます。
| 測定方式 | 記載なし |
|---|---|
| 測定範囲 | 水平方向:±360° 垂直方向:±145° 測定直径:320m 最短測定距離0.8m |
| 3次元座標精度 | ±15μm + 6μm/m |
| 角度精度 | 記載なし |
| 距離精度 | 記載なし |
| 本体重量 | 13.6kg |
三次元測定機とレーザートラッカーは、どちらも大型ワークの測定が可能な装置です。ただし、その用途や環境によって適切な選択は異なります。
レーザートラッカーは、門型やアーム型の三次元測定機では対応しきれない大規模な測定や、野外現場での測定に適したツールです。広範囲な測定が可能で、さまざまな産業分野で活用されています。
ここでは、卓上に乗らない大型サイズのワークを対象とした検査において、測定サイズごとに適した性能・特徴を持つ三次元測定機やレーザートラッカーと、そのメーカーについて紹介しています。
WMシリーズ
| 測定範囲 | 1.0~25.0m |
|---|---|
| 指示誤差 | ±(28 + 5L/1000) μm |
Quantum Max FaroArm
| 測定範囲 | 2.0~4.0m |
|---|---|
| 指示誤差 | ±25~76μm※ |
Absolute Tracker AT960
| 測定範囲 | ~80m(最大160m) |
|---|---|
| 指示誤差 | ±15μm +6μm/1m※ |